関係としての知識表現

AIの時代、コンピュータに人の知識を移す研究は盛んです。課題は2つあります。コンピュータが理解できる形に知識をいかに変換するか、2つ目はコンピュータ化された知識をどのように利用するかです。この2つの課題を同時に解決するには、知識の表現形式とその形式を利用した取り出しのための推論機構がセットで定義される必要があります。過去にはフレーム理論が使われ、一時、論理形式が有望となり、現代はオントロジーが主流となっています。この場合、対象とする知識が予め体系化していることが前提となります。したがって体系化されていない知識を扱うことができません。また、 特に論理形式が典型となりますが、知識の欠損を推論で扱うことは難しいです。

翻って、世の中には体系化されていない、あるいは明示的に体系が見えない知識は多く、さらにいえば曖昧さを含む知識(両方含めて部分知識 partial knowledge と呼ぶ)も少なくありません。ただし、直接的にこの問題に挑戦しようとすれば、手が無くなります。打開策として、1つは部分的に体系を成しているところから攻め、もう1つは曖昧さを曖昧さのまま扱うというアプローチを考えます。そして両者をデザイする道具として関係制約 relation constraint と関係に関する型理論 type theory for relation を導入します。

知識を対象と関係によって表現できるものとすると、これをグラフ構造に置き換えれば、対象が頂点に、関係が辺に対応します。その場合、関係(辺)に型制約を持ち込みます。ただし、プログラミング言語における型理論と異なり、型ドメインはANYを頂点として、ANYを制約する多くの情報を使い、知識が持つ曖昧さ(ANY)がより確実な情報に型制約されます。この仕組を利用することで、最初は関係が不明あるいは曖昧であった、「りんご」と「赤ずきんちゃん」の間にANY型の辺が作られ、あるいは、「りんご」と「果物」の間にもANY型の辺が作られ、さらには「りんご」と「Apple社」との間にもANY型の辺を引くことが可能となり、その後、時間変化の中で、知識(情報)が追加され、ANY型が具体的な型で置き換えられていきます。従来の知識表現言語の枠組みの中では、対象間の関係を予め定めておく必要があり、対象を結びつける関係が曖昧の場合、「仮」の関係を構成することが不可能であったものを、関係に関する型制約理論はこの問題を解決します。

知識表現言語としてのグラフ構造

知識をグラフで表現する場合、各種属性を頂点および辺にどう振り分けるべきか問題、属性配分問題が一般には起きます。しかし、型制約のモデルを使う場合、辺は型を代表するので、辺に付属する属性は型制約に関係する属性のみとなり、残る属性を頂点に配分します。また、グラフ構造を使う場合、辺の削除、追加、複製、付け替えに意味を付与することができます。つまり、辺の削除、追加、複製、付け替えを知識の変化として捉え、理論的に結びつけることが可能になります。さらに、論理データベースから知識を得ようとした場合、queryを論理式に変化し、論理データベース上を推論する必要がありますが、この推論には膨大なコスト(時間・メモリ)を要します。一方、グラフ表現された知識は、一般にはグラフデータベースに格納され、知識の取り出しはデータベース検索に対応するため、高速なアクセスが可能です。

知識の進化的獲得

型制約モデルによって知識を表現することで、頂点(対象)は増え続け、辺(関係)は変化し、削除され、追加され、そして頂点間を移動します。プログラミング的にはインクリメンタルであり、生物学的にみれば進化的獲得に対応します。さらに工学的発想で捉えれば、従来オントロジーを使ったアプローチ、すなわち「全て」の知識が揃わなければ何も出来なかったのに対し、型制約モデルは、体系的にも知識的にも「部分」状態(部分知識)のまま使うことができます。




Symbolic Systems, Inc. 2020.06