プロセス解析

人が手を使い、道具を使い、IT技術を使い、仕事をする過程processの自動化を想定してみます。人間の作業とIT技術との親和性は高く、人間が行う機械的作業は容易にIT技術(自動化ツール)に取って代わることができます。また、人間の判断を必要とする部分においても、IT技術はこれをサポートすることで有効な道具となっています。つまり、人間が持つ能力のうち機械的作業は完全自動化が可能であり、人間の判断を必要とするものも部分的に自動化が可能です。この場合、コスト効率でいえば、明らかに機械は人間を上まります。

一方、人間は判断において何らかの解釈を求められることも多く、そこに必要とされる経験コスト は、同等のものを機械で実現する場合のコストと比べはるかに低くなります。たとえば、商品販売の店頭において、何らかのトラブルがあった場合、顧客に対し、お詫びを伝える、場合によっては商品を値引きする、そうしたイレギュラーな対応を今のAI技術で実現することは困難です。あるいは、コールセンターにおいて料金トラブルの対応で、料金表を読むという作業を必要とした場合、AIに解釈させるより、人間の方がはるかに優秀であり、かつ、そこに支払われるコストは同様のAIを実現するコストよりはるかに低くなります。

RPA (Robotic Process Automation)

RPAの難しさは、自動化出来る部分と自動化が難しい部分の切り分け、にすべて掛かっています。仮に切り分けができたとしても、次の点を考慮する必要があります。

人間が行う各種作業には機械化の視点からみると無駄が多いですが、その一方、多くの余裕(マージン)を生んでいます。RPA化に対しては、一定規模のマージンを、自動化の中にどう作り込むか、そこがポイントになります。マージンへの配慮こそが、持続可能なITシステムには必要不可欠だからです。もう一点は、やはり、人間の経験知を置き換える(これには時間がかかる)のではなく、IT技術といかに上手に組み合わせるか、そこもRPA化が成功するための鍵となります。

暗黙知の機械への移転

そもそも人間自身、自らが持つ知恵を明確にかつ詳細に手順化することはできません。鍵は曖昧さにあります。機械が扱いやすい言葉で記述するのではなく、人間自身が表現しやすい自然言語を使って知識を記述する。そして、誰か(何か)が、その曖昧さも含まれる自然言語で記述されたものを機械が理解できる言葉に翻訳すればいいだけです。ただし、現状ではその翻訳自体が超難しく、実際には、人語を解し、機械語(正確にはコンピュータで処理可能なフレームへの変換)を解すプロが咀嚼、解釈することで、明示的な知識も含め暗黙知をコンピュータに移転する努力が続けられています。いずれにしても、暗黙知の機械への移転の成功は、機械に寄るのではなく、人間に寄る、つまり「曖昧さ」をどれだけ多く取り込めるかに掛かっています。その意味で、機械における自然言語「理解」は、最大の鍵となります。

なお、現時点ではのAI技術の中核は、知識の丸暗記にあり、理解にはありません。したがって、たとえば、「この中で金属を使っていない道具は何か」と問われ、ゴムを答えとして返すことは、人間は可能でも、AIには無理です。なぜなら、人間は暗記でこの区別を理解しているのではなく、触感の差、つまりfeelで理解しているからです。




Symbolic Systems, Inc. 2020.05